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東京高等裁判所 昭和56年(ラ)693号 決定 1981年10月27日

抗告人

天城自然公園株式会社

右代表者

岡運平

外三名

右抗告人四名代理人

水田耕一

丸尾武良

末政憲一

右復代理人

小川敏夫

松島洋

相手方

岡亨

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

一本件抗告の趣旨及び理由は、別紙抗告状(写)記載のとおりである。

二当裁判所の判断

判旨商法二七〇条所定のいわゆる取締役の職務執行停止、代行者選任の仮処分は、民事訴訟法上の仮処分とその本質を異にするものではなく、仮処分命令自体の取消、変更は、異議、上訴等当事者の申立に基づいてなされるべきものである。しかしながら、取締役の職務の執行を停止し、その代行者として特定の者を選任する旨の仮処分決定は、理論的には、取締役の職務の執行を停止し、代行者に当該取締役の職務を執行させる旨の仮処分命令と、この仮処分命令に基づき特定の者を代行者に選任する旨の執行命令からなるものと解すべきであり、執行裁判所は、当該代行者に職務を続行させるのが不当であると認める場合等には、職権をもつて右執行命令の変更をなしうるものと解すべきである。

記録によると、原裁判所は、抗告会社の取締役岡秀彦及び同岡弘子の各職務の執行を停止し、代行者にその各職務を代行させる旨の仮処分命令を変更したものではなく、右仮処分命令に基づき岡田七雄を右代行者に選任した執行命令を取り消したことが明らかであり、この取消は、同人に職務の執行を続行させるのが相当でないと認めてされたことが窺われ、これを違法とすべき事情は存しない。

以上のとおり原決定に違法はないから、本件抗告に理由がないものというべきである。

よつて、抗告費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり決定する。

(園田治 菊池信男 柴田保幸)

〔抗告の理由〕

一、原決定は、当事者の申請を待たずに、取締役職務代行者である岡田七雄を解任している。これは商法二七〇条二項の解釈を誤まつたものであり、取消を免れないと思料する。商法二七〇条一項に規定する職務代行者選任の仮処分が特殊の性質を有する非訟事件であるとすれば、裁判所は自由に職権で解任することが出来ると解されるが、同条項の規定する仮処分は民事訴訟法の仮処分と別異のものではないとするのが最高裁判所の判例であり(最判昭和四一年二月一三日・同昭和四五年一一月六日)、この見解よりすれば、仮処分債務者である抗告人より申立てのない本件で裁判所が職権で解任したのは商法二七〇条二項違反である。

二、仮りに、裁判所が職務代行者を自由な裁量で解任できるとしても、裁量基準は合理的なものである必要があり、本件は著しく裁量が恣意的であり取消しを免れない。職務代行者が職務を不適任とされるのは、当該代行者が会社に回復し難い損害を与える恐れがあるからであり、その他の理由からではない。ところで、岡田七雄は、被抗告人の妻のおじという立場から、抗告人、被抗告人いずれの立場に偏することなく天城自然公園株式会社(以下、天城荘という)の将来を憂い、職務代行者として選任されて以来、ひたすら天城荘の繁栄を願い職務を遂行してきた。岡田七雄は、単に名目上の職務代行者のみに止まらず、実際に、天城荘の東京案内所を運営し、東京周辺のお客と天城荘のパイプ役になつていたものであり、天城荘を益する者でこそあれ、損失を与えるものではない。この点よりして原決定の裁量の逸脱は明らかであり、原決定は取消されるべきである。

三、よつて抗告の趣旨記載の裁判を求める。

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